なかはら
中原淳(東京大学)のブログです。教育工学 / 企業人材育成 / 組織学習 / 学習する組織 / 協調学習 / 知識創造 /ワークプレイスラーニングなどが研究のキーワードです。
たまに「子育て」に関しても、書いています。
「思考停止するビジネス書」と「問いかけるビジネス書」
2009/07/09 09:21:18
この世には、二種類のビジネス書があります。
「思考停止するビジネス書」と「問いかけるビジネス書」です。
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「思考停止するビジネス書」には、その著者に「迷い」や「戸惑い」がありません。彼は、「事実」を知っているのです。それを支配している語り方は、「もし○○したかったら~しなさい」です。
著者が何らかのかたちで所有している「権力」 - 人気、社会的立場、成功の経験 - を背景にして、彼は、自信をもって高らかに、言い放ち、あなたに迫ります。
「もし○○したかったら~しなさい」
読者は、「迷い」や「戸惑い」のない著者の言葉を心地よく受け止めることができます。なぜなら、自分の頭で考える必要がないから。
それさえ従順に実行していれば成功が約束されると、彼が言うのだから、考える必要がありません。つまり「思考停止」するのです。
「思考停止」は、いつだって、心地よいものです。「自分の頭で考えること」が重要なことはわかっていつつも、「考えること」で生じてくるモヤモヤ - つまりは、「わからなさ」に、人はなかなか耐えることができません。
逆説的ですが、考えるとはモヤモヤすること。
わかるとは、わからなくなること、なのです。
古の哲学者は、2000年も前から、真理をつかんでいました。
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一方、「問いかけるビジネス書」は、著者に「迷い」「戸惑い」があります。つまり、著者自身、自分の語っていることが「仮説」であることを重々認識しています。しかし、反面、膨大なデータや理論的背景のもとに、ようやくつかんだその「仮説」が、ある一面では、読者に「考えるヒント」となることの可能性を信じています。
これは、ある先生にお聴きしたことですが、経営学の泰斗ヘンリー=ミンツバーグは、この問題に関して、こういう言葉を残しているそうです。
With the vast amount of data, I have the right to dream...
ミンツバーグが言いたかったことは、こうではないでしょうか。
「自分は、これまで様々なデータを集めて、理論を構築してきた。それを総合して、「きっと、こうではないか」といういくつかの仮説を得ることができた。読者にとって、それは、もしかしたら"考えるヒント"になるかもしれない。もちろん、それは、僕の「夢」かもしれない。しかし、これだけやってきたのだから、その「夢」を見る権利、夢を語る権利は、僕にはあるはずだ」
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「問いかけるビジネス書」を支配する語り方は、こうです。
「もし○○だったら、あなたはどうしますか」
「問いかけるビジネス書」の読者には、読後に、「モヤモヤ感」が残ります。なぜなら、「答え」は呈示されていないから。あくまで、著者が呈示しているのは「考えるヒント」であるからです。
「問いかけるビジネス書」は、人を思考停止させません。むしろ、読者に「思考すること」を促すのです。
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「自己啓発」「大人の学び」「人材育成」に関するビジネス書が巷にあふれています。しかし、仮に、それらの本が「思考停止するビジネス書」であるのだとしたら、それは「論理矛盾」です。
本の中で、「大人に学べ」「大人に自分の頭で考えろ」と主張しつつ、反面、人々に「思考停止をせまる」からです。
これは本だけに言えることではありません。「講演」にだって、「セミナー」にだって、「ケーススタディ」にだって、いえることです。
答えは、「本」や「講演」そのものには、ありません。
答えは、いつだって、あなたの「思考」の中にあるのです。
あなたが、今、手にとっているビジネス書は、あなたに何を問いかけてきますか?


